東京高等裁判所 昭和44年(行コ)40号 判決 1970年7月13日
控訴人(原告) 株式会社志んどう
被控訴人(被告) 横須賀税務署長
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。控訴人の昭和三八事業年度の法人税について、被控訴人が昭和四〇年六月三〇日になした課税標準額金六一二万三、六二三円、法人税額金二八一万四、一八〇円、過少申告加算税額金一四万〇、七〇〇円とする旨の更正決定および昭和四四年三月二五日になした課税標準額金六一二万三、六二三円、法人税額金二四六万八、七〇〇円、過少申告加算税額一二万三、四〇〇円とする旨の再更正決定は、それぞれ課税標準額金三八二万一、〇八四円、法人税額金一四六万七、三六〇円、過少申告加算税額金七万三、三五〇円を超える部分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上および法律上の主張並びに証拠の関係は被控訴代理人において乙第五号証の一、二は訴外浦野忠義が作成したもので本件建物の見取図であると述べたほかは、原判決の事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。
理由
一、被控訴人が、控訴人の昭和三八事業年度の法人税について、昭和四〇年六月三〇日に課税標準額を金六一二万三、六二三円、法人税額を金二八一万四、一八〇円、過少申告加算税額を金一四万〇、七〇〇円とする旨の更正処分をし(本件更正処分という)、これに対し控訴人が異議の申立をしたところ、被控訴人は同年一〇月二〇日右異議を棄却したので、控訴人はさらに東京国税局長に対し審査請求をしたが、同局長は昭和四〇年七月二〇日右審査請求を棄却し、その裁決書の謄本が同年八月三日控訴人に送達されたことおよび本訴係属中の昭和四四年三月二五日被控訴人が前記法人税につき課税標準額を金六一二万三、六二三円、法人税額を金二四六万八、七〇〇円、過少申告加算税額を金一二万三、四〇〇円とする旨の再更正処分(本件再更正処分という)をしたことは当事者間に争いがない。
二、控訴人は本件更正並びに再更正処分は、課税標準額金三八二万一、〇八四円、法人税額金一四六万七、三六〇円、過少申告加算税額金七万三、三五〇円を超える部分につき違法であると主張するので判断する。
(一) 次の各事実については当事者間に争いがない。
(1) 控訴人は訴外浦野忠義から横須賀市若松町三丁目一四番地の二(以下本件土地という)所在家屋番号第一〇〇番鉄骨亜鉛葺二階建倉庫を賃借し、これを店舗(飲食店、階下は食堂、二階は宴会用座敷以下本件建物という)に改造し、その後数次に亘り必要費、有益費を投入して造作(本件建物附属設備)を取付け飲食店を営んできたところ、訴外株式会社協和銀行がその支店の新築地として本件土地の借地権を取得しようと考え、訴外東京建物株式会社(以下東京建物という)に依頼して本件土地の借地権の買取に当らせた。そこで東京建物は昭和三七年八月一六日協和銀行との間に本件土地の借地権の売買契約を締結し、昭和三八年三月末日までに本件建物その他の工作物をすべて収去し、本件土地を更地の状態で引渡すべきことを約し、次いで翌八月一七日浦野から借家人の控訴人を浦野の責任で昭和三八年一月三一日までに立退かせる約定で本件家屋および本件土地の借地権を買受けた。その後右立退について東京建物と控訴人が直接交渉した結果同年八月二二日両者間に、(い)控訴人は東京建物に対し本件建物を昭和三八年九月三〇日限り明渡し、東京建物は控訴人に対し金二、二〇〇万円を支払う(ろ)東京建物は控訴人に対し右金二、二〇〇万円の内金一、一〇〇万円を和解成立のとき支払い、残額一、一〇〇万円を右期限内に明渡完了したときに支払う(は)東京建物は控訴人が本件建物に備付けた造作その他の備品、看板を明渡期限内に搬出することを承諾する等の条項による裁判上の和解が成立したので、控訴人は右和解条項に基き右期限内に本件建物を明渡し、昭和三八年八月二二日東京建物から金二、二〇〇万円を受領した。
(2) 控訴人は、昭和三八年二月一日から昭和三九年一月三一日までの昭和三八事業年度の法人税について確定申告書(欠損金額一七、九八九、〇二六円法人税額〇円)を法定申告期限内に被控訴人に提出し、次で昭和四〇年六月一七日右確定申告に対する修正申告書(欠損金額九、五三〇、六四三円、法人税額〇円)を提出したが、この申告において控訴人は前記東京建物から受領した二、二〇〇万円のうち一七三万三、二〇一円については買換資産の取得であるとして当時施行の租税特別措置法(以下措置法と略称する)第六五条の四の、また残額二、〇二六万六、七九九円については同法第六五条の五の、各課税特例の適用を求め、本件建物明渡に関して取得した金二、二〇〇万円を全部損金(内訳(イ)建物除却費金二五八万一、〇〇一円、(ロ)立退に要した経費金二六万三、三〇〇円(ハ)買換建物勘定特別償却金一五〇万九、一二一円、(ニ)特別勘定繰入損金一、七六四万六、五七八円以上合計金二、二〇〇万円)に算入した。
ところが、被控訴人は控訴人の右の処理を認めず、昭和四〇年六月三〇日上記損益金内訳のうち(ハ)については法人税法施行細則(昭和二二年三月三一日大蔵省令第三〇号)第六条により買換建物の減価償却をしたものとみなし、その取得価格金一七三万三、二〇一円を基礎として計算される同細則第三条の二による償却範囲額の金四万七、三七四円を超える額金一四六万一、七四七円を減価償却超過額として控訴人の申告所得に加算し、(ニ)については控訴人の措置法適用による買換資産特別勘定繰入れについての損金処理を否認して、控訴人の申告所得に加算し、所得減算額合計金三四五万四、〇五九円との差引所得金六一二万三、六二三円法人税額金二八一万四、一八〇円過少申告加算税額金一四万〇、七四〇円とする本件更正処分をし、次で昭和四四年三月二五日被控訴人は右法人税額を金二四六万八、七〇〇円に、過少申告加算税額を金一二万三、四〇〇円に各減額する旨の本件再更正処分をした。
三、本件における争点は上記控訴人が東京建物から和解により取得した金二、二〇〇万円中には本件建物附属設備の譲渡代金を含むか、及び右建物附属設備の譲渡代金について当時施行の措置法第六五条の四、同条の五(昭和三八年法律第六五号による改正後のもの以下同じ)の適用があるかどうかの二点である。
当裁判所も控訴人が東京建物から和解によつて取得した金二、二〇〇万円中にはその額についてはともかくとして、本件建物附属設備(造作)の譲渡代金を含むものと認めるものであつて、その認定の理由は原判決のそれと全く同一であるからこの点に関する原判決の判示(原判決一八枚目裏一行から二〇枚目表一行(同、一二〇六頁六行目)まで)をこゝに引用する。
しかしながら措置法第六五条の四および同条の五の規定は法人税法の定める資産の譲渡所得の規定の例外的課税措置を定めたものであるから、その文理に即して厳格に解しなければならないことはいうまでもない。
ところで措置法第六五条の四は、法人がその所有する資産で同条第一項各号に掲げるものを譲渡した場合において当該譲渡の日を含む事業年度において同条の定める資産を買換し、これをその取得した日から一年以内に当該法人の事業の用に供し又は供する見込であるときは、右買換資産につき同条の定める一定限度の金額(圧縮限度額)の範囲内で損金計理により減額又は引当金勘定に繰入れる方法により経理した場合にかぎりその減額又は経理した金額に相当する金額を当該事業年度における所得金額の計算上損金額に算入することとしたものであつて、法人がその所有する資産を譲渡したことを前提とし、その譲渡資産(物件)に対応する物件の買換をした場合にかぎり同条の適用をみることが明らかである。しかして、同条第一項第二号にいう「建物及びその附属設備」とはその文理上「建物及び当該建物の附属設備」と解するのが正当であつて、附属設備については、それが附属せられた法人所有の建物と一体となつて譲渡された場合にかぎりその適用があり、建物の附属設備だけを建物から切り離して単独に譲渡した場合にはその適用がないものと解するを相当とする。もつとも成立に争いのない甲第二号証によると、国税庁長官は昭和三八年九月一四日直審第二〇四号をもつて「措置法第六五条の四第一項二号に掲げる建物附属設備については建物と一体となつて譲渡した場合に同項の規定の適用があるが、建物附属設備を単独に取得する場合であつても同項に規定する買換資産とすることができることに取り扱う」旨通達していることが認められるが、税務行政上右後段のような取扱いのなされていることは、何ら上記の解釈を左右することにはならない。
また措置法第一三条の二第一項、同第四六条第一項および法人税法施行規則第二一条第一項はいずれも減価償却に関する規定であつて、措置法第六五条の四、同条の五とは規定の趣旨、目的を異にするからこれらの各規定を同一に解釈しなければならないものではないことも、もちろんである。
そうすると、控訴人が東京建物から和解により取得した金員中には建物附属設備の譲渡代金が含まれているとしても、それは法人がその所有の建物と一体として当該建物の附属設備を譲渡した場合に該当しないから、措置法第六五条の四および同条の五の適用がないものというのほかはない。したがつて右法条による損金としての処理を認めなかつた本件更正処分は適法であるといわなければならない。
なお、右更正処分における法人税額および過少申告加算税額について計算上の誤りがあつたことは被控訴人の自認するところであるが、右は本件再更正決定により正当に更正(一部取消)されたことが認められ、本件再更正処分についても、控訴人の主張する建物附属設備の譲渡代金につき措置法により減算しなかつた点について違法のないことは前段判示のとおりである。
三、よつて以上と同旨で本件更正処分および再更正処分の一部取消を求める控訴人の本訴請求を棄却した原判決は他の点について判断を俟つまでもなく正当であつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石田哲一 杉山孝 唐松寛)